言語学の世界をのぞいてみよう(言語学入門)
今回の動画で「形態的類型論」についてお話ししました。「形態的類型論」とは6000以上も存在する言語を区別するにあたって、語族や語系ではなく、屈折語や膠着語、孤立語などで分類する方法を指します。この「形態的類型論」をもとに考えてみると、日本語(主にSOVの順番を守る日本語族の膠着語)の話者とスペイン語(主にSVOの順番を守るロマンス語族の屈折語)の話者の脳の仕組みはかなり違うものだと考えられます。直訳が不可能な単語も多く、思考の仕方も大きく異なるため、世界をどのように理解しているのかさえ違うのではないかと、不思議に思うかもしれません。
実はこのことについてベンジャミン・リー・ウォーフとその師匠(エドワード・サピア)がいろいろな著書を残しています。両者没後、他の言語学者が彼らの説を「ウォーフ・サピア仮説」、またの名を「相対的言語学」と名付けました。彼らは、それぞれの言語によって現実の受け取り方、世界そのものがそれぞれ違ってくると考えていました。これは主に保守派と緩和派の二つの教派に分けられます。保守派の考え方は、言語によって自分が理解できる現象が限られます(かなり極端的な考え方で、現在の言語学者の間であまり人気がない説)。一方、緩和派の考え方は、見方や思考が違っても、説明を受ければいかなる現象をも理解することができるというものです。後者は言語学者の間で最も支持されている説です。
ウォーフ先生のこの考えのきっかけとなったのはイヌイット語だと言われています。例えば、極端に寒い所に住むこの民族は「雪」を指す単語がたくさんあります。「日本語にもあるよ!泡雪(あわゆき)や小米雪(こごめゆき)、灰雪(はいゆき)など数えきれません!」と言いたくなる方もいるかもしれませんが、これらは全部「ユキ」です。つまり、語源も一緒で、「ユキ」というものを細かく区別して言っているだけなのです。イヌイット語の場合は、全ての単語が違う語源や語幹を持ち、違う「現象」を指すのです。つまり、日本人が「ユキ」を見るところにイヌイット民族の人は色んな「現象」を見分けているのです。しかし、日本人にきちんと違いを説明すれば、自分の母語でもそれぞれの違いを理解できる可能性が高いので、緩和派の言う通りということになります。
似たような例を他に出すと、1年に200日以上も雨が降るガリシアではガリシア語で「雨」を指す単語が75もあります。例えば:babuxa, barbaña, borralla, breca, chuvisca, froallo, lapiñeira, marmaña, orballo, parruma, poallo, zarzallo, ciobra, dioivo, treixada, xistra, zarracina, zorregar…などです。ご覧の通り、語幹も違っていて、語源も違うので、違う現象として扱われています。
(日本語で「雨」を指す単語も多いですが、漢語を除くとほとんどの単語が語幹や語源を共にしているため、大きく3種類ぐらいに分けることが出来るのです。)
最後にカール・ケレーニイという言語学者が50年ほど前に残した名言を引用したいと思います:
「思考と言語の相互依存を考えると、明らかなになるのは、言語というのは既に成立した現実を伝えるための道具ではなく、まだ知られていない現象を発見するための道具であるということです。言語の多様性は音や記号の多様性ではなく、世界の見方の多様性です。」
皆さんはどう思いますか?外国語を勉強する際、「この言語を話す人は全く違う思考を持っているはず!」と考えたことがありますか?
もちろん、相対的言語学から考えると、違う言語の話者が見ている世界を理解するにはその言語を勉強するに越したことはありません。
今回のブログで、形態的類型論だけではなく、相対的言語学というかなり複雑な分野を少しだけでもご理解いただけていたら嬉しいです!
では、次の投稿、もしくはレッスンでまたお会いしましょう!
ご質問等ありましたら是非お問い合わせください!